研究題目:メタボローム解析を用いた海底質中PAH類の魚類に対する有害性評価手法の検討

 

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【研究概要】

 

 我々人間の生活や生産活動により排出される化学物質は様々なものがあるが、そのいくつかは大気、降雨、大気からの直接沈降により水域に運ばれ、最終的に海底質に沈降、残留する。そのため、底質には様々な化学物質が蓄積され、場所、物質種によっては非常に高濃度に残留していることが知られている。現在までに水域底質の残留化学物質の生物影響試験法は様々検討されているが確固たる方法は無い。また、底質付近に棲息する生物が化学物質に複合暴露される可能性があり、このことが底質の影響評価を非常に難しくしている。

 

 メタボロミクスは糖類やアミノ酸などの生体内代謝物質の変動(メタボローム)を網羅的に見出し、生体内で今、何が起こっているかを調べる手法である。近年、環境汚染物質影響評価法としても注目を浴びているが、実環境の汚染影響評価に適用した例は極めて少ない。代謝物情報は遺伝子などと比べると遙かに情報量が少ないが、反面、ゲノム情報を必要とせず、代謝物質や代謝経路の多くが生物種を通して共通しているため、多くの生物に対してその手法、情報が共有できるという利点を持つ。さらにゲノム情報が不足している生物に対しても適用範囲を広げることができるため、今後、環境汚染物質影響評価に広く用いることが期待される。我々はこれまで魚体内の生体内代謝物変動上を網羅的に収集して、統計処理し、個体が化学物質暴露により受けた影響の数値化法開発を行って来た(環境省環境研究総合推進費RF-0909 実環境の複合汚染評価を目的としたトキシコゲノミクス解析法の開発と現場への適用」(H21-23

 このメタボローム解析法により個体が受けた総合的な影響の大きさを数値で示すことが可能になった。

 

 多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon: PAH)は石油構成成分の1群である。よって、石油流出事故が水域で起こると、PAHは水中に直接放出されることになる。また、PAHは燃焼時にも発生し、大気中に放出される。特に燃焼由来のPAH放出の主な源は自動車や工場の排ガスであり、大気放出後、降雨や大気からの直接沈降など様々な経路で水系に入り、最終的には海底質に沈降する。PAHは都市部海底泥を中心にしばしば高濃度で検出されることが知られている。アメリカ環境省は特に生物に影響を与えると考えられるPAHとして16種類を上げているが、その中でもベンゾ(a)ピレンなどいくつかのPAHが変異原性を有することが知られている。また、その他のPAHでも魚類胚発生段階で胚中に取り込まれると、孵化仔魚に奇形を発したり、脳神経発達を妨げるなど様々な影響も報告されている。我々の研究室では石油流出事故調査や都市部における海域調査などを通して、継続的にPAHの環境分布調査を行っており、さらには水生生物に対するPAHの影響研究も広く行ってきた。

 

 本研究では大阪湾など日本の沿岸域数地点で海底質を採取し、底質中に含まれるPAH群の影響を、海産メダカのジャワメダカを用いてメタボロミクスにより調べ、PAHの影響が低湿に含まれる化学物質の影響のどの程度を占めているかを調査する。そして現在の海底質中PAHの複合暴露リスクの一端を明らかにすることを最終目標とする。

 

 

 

 

調査経過

1)名古屋周辺のサンプリングを行いました(8月18日~20日)

2)福岡周辺のサンプリングを行いました(10月9日~11日)

3)東京周辺のサンプリングを行いました(10月29日~31日)

4)SETAC North America 34th Annual Meeting(米国ナッシュビル)に参加し、本研究で用いるメタボロミクス解析法について発表を行いました。

 

5)現在、影響評価中~